ハレの日







「守りたいものってある?」


ディアッカが何の前ぶれもなく呟いた。

俺はその時やたらと正義心に満ちていてまるでこの世を自分だけが背負っているような口ぶりで答えたと記憶している。


「何今更言ってる、国を守る意外に何を守れってんだ」
「うん、まあそうなんだけどね」

今まで着ていた包み込むような白いセーターに変わり冷たいタイトな淡色のインナーを被り布越しに会話が続く。

「ここまできて何の目的もなくそいつを着てるのか?脱ぎ捨てるなら今のうちだぞ」

俺と同じ評議会議員の親を持つ身からすれば士官学校に入る事は至極当然の流れだった。
権威を手に入れたいとか特別国を守りたい気持ちが強いからだとかそういう志がこいつにあったのかそういえば聞いた事がない。
遅刻しなければそれでいいといつもギリギリに登校するようなやつが既に軍服に袖を通して待っていたのだから。

「目的とかここに来る奴等はみんな同じだけど何か特別な事があったりするのかなってさ聞いてなかったから」

似たような事を考えていた事が意外で着替えの手が止まって視線を送る

「軍に入る為の学校に花屋を開きたい奴が来ると思ってるのか?」
「まあね、お前の事だから薄々気付いていたかもしれないけど何も目的なんてないよ」

と、赤なんて貰っちゃって今更いう話でもないけどとヘラヘラいうこいつに苛立った。
俺は赤を貰えないと在学中思った事はないが、決して容易に貰えるものでもない事くらいは知っている。
時折見せる要領のよさ、何を考えているのか分からない表情。
何処に配属されるのかなんて知らないが精々「ご学友」止まりになるんだろうと思って居た矢先まんまと赤を渡されていた。
本気に見えない努力家なのか、それとも所謂天才タイプなのかは知らない。否、知ろうとした事がない。
万が一後者なら俺は教官をあらゆる手を使って買収し一般兵に突き落としてやる所だ。

「どうでもいいがいつ校舎に着いたんだ?俺より大分早く着いたようだがどうせ先まわりして下らん悪戯でも仕掛けてたんだろ」
「悪戯ねぇ…それいいね」

白いベルトを締め終えたところで奴を見ると同時に奴もこちらに顔を向けて口を開いた

「その悪戯する為にすげー早く来たんだけど、ちょっと手をこまねいてしまって今になっちゃった」
「どうせ下らん事するつもりだったんだろ良心が残っていた事については褒めてやる」

黙りこくる様に考えを言うよう促してみる
「…なんださっきからテンポ悪いな 話したい気分じゃないなら無理に続ける必要もないだろ緊張しているのか?お前らしくないな」
「あー、まあその悪戯の事なんだけど聞きたい?」

「は?」

どうせくだらないのは目に見えてるがわずかな好奇心が心を擽り問い返す
「聞いてやってもいいが、事と次第によっては覚悟しろよ」

その言葉によもや核心をつかれたかのような顔をみせる
何をやろうとしていたのか知らないがこれは本気で褒められた事をしてないのかと腹を据えて聞く姿勢を見せた

「・・・してた」

耳を疑うような事を口にした・・・ような気がした
人間考えられない事を聞くと反射的に聞く能力を遮断するように出来ているのか内容が入ってこず聞き直す

「何?本当に聞こえんかったもう一度言え」

「・・・お前の軍服を隠そうとした!!!」

その言葉に気がついたら奴の襟を掴んでいた

「はぁ?!どういう事だ!!やっていい事と悪い事の区別とうとう着かなくなったってのか?!」
「区別ついたからやめたんじゃん…」
「ああ、そうだなそれは褒めてやらん事もないが発想がそもそもぶっ飛んでるお前の軍服こそ隠されるべきじゃないのか?あぁ?!」
「・・・そうも行かないんだよね」

滅茶苦茶な言葉のやり取りを横にこいつはこの期に及んで油しか注がない事しか言わず怒りを越えて解読不能に陥った

「さっきさ、守りたいものの話したじゃん それここ数ヶ月で出来てしまったんだよ」
「それとこれとまったく話が繋がらないんだが」
「俺も自分の事今まで知らなかったんだけどどうやら大事な人ができちゃうと自分を盾にして守りたいと思うみたいでさぁ…
 土壇場でこの方法しか思いつかなかったんだよねー…」
「だから俺の軍服とお前の浮ついた話関係ないだろ!お前軍に入るのびびって頭どうにかなったんじゃないのか?」

少し諦めたような顔を見せたのは俺にマウントを取られて殴られる覚悟でも出来たような顔に見えた。
「そうかもしれないな、俺ちょっとイカれてるわ」

「ちょっとどころじゃないだろ」とつっこむ俺は今日はじめてやっとこいつと目が合うことができたような気がした
「いやまあ簡単に説明しちゃうと軍服なくせば軍に入れなくなるって思ったんだよでもそんなの一時的だって気がついたと同時に
 同じ隊に入れるんだし一緒に居れるからいっかなってさ」

「俺に隊に入れなくしたかったのか?」

「万が一の事が起きてお前がいない世界にしたくないって思っちゃったからさ、不器用なんてもんじゃないな…俺カッコワリィ…」

マウントのままそういいながら手で顔を覆う姿は多分一生忘れないんじゃないかっていう出来事だった
今日の入隊式からどの位共に居られるのかなんて分からない
17歳になったばかりの俺は目先の結果ばかり気にして後に繋ぐ命の長さなんて拘りは全く無かった

この頃からだろうか 俺は少しだけ生きる事に貪欲になったのは





fin