透明な季節



もう何年も帰ってない自室にいる自分
イザークは部屋の眼下に見える庭の噴水にただなんとなく目をやる

数ヶ月前に終息したヤキンのあわただしさから180度変わる景色に違和感を感じていた
「どうだった?」と聞かれる事があるとすれば、ここは忙しかったとそのままの感想をいうまでであろう
部屋の片隅にはいつでも袖を通せるように整えた議員服がある
一年前の今頃は緊張しながらも未来の自分を想像し、プランどおりに行く末を見てそれに向けて進む毎日であった

時間さえあればやりたい事は沢山あったはずだ
だけど実際にその時が来てしまうともてあましてしまう
正確に言うと、何をすべきかわからない 否、何かを手にする気になれないと言った方が正しいだろう
そんな折に思い起こす事は一つだった

初めて経験する戦争
どういうものであるかは言わずとも分かる
安堵、後悔、新たな目標、周りの者の心情の変化、そして自分の変化…
一度にその全てを受け入れた上で新しい事柄をはじめすすめる精神
背負ったものは予想以上に重かった

だが戦士の性とでもいうのであろうか
機体はもう見たくないという気持ちにはなっていないという自分に気づきハッとして視線を泳がせ
内部に戻り椅子に腰掛け手元にある通信機の電源を入れた
オンになった通信機はすぐさま新着メッセージの着信を知らせその応答に応えチェックする
そして自分の手は受発信記録をさし、それを開いた
受信が新しいものを上に、その記録は多くバーを下にカーソルする
いくつか同じ名前が続く中、受信記録が少し前の物にいくにつれ懐かしい名前が目に付いた
その名前の多くがもう姿を見せることの無い「友人」のもだった

争いなんてものは無いに越したことはない
戦う事によって得るものもあると信じ戦ってきた
なのに失うものの大きさを改めて思い知らされる

窓を開け放していることによって空調があまり効かなくなった部屋
肌が汗ばむ事も忘れてただ部屋に入る風を受ける今の季節は夏
この部屋で過ごした夏の中で一番辛い夏になったとイザークは考えた

・・・・・・

あれから数年

月日の助けにより散らばる不規則な色に埋もれた毎日から何色にも染まらない自分と今年もこの部屋でこの日を迎える
そしてめぐる季節と共に相応の光と暖かさを取り戻し感じるようになった

例によってカレンダーが「8月8日」を示している事に気づかない本人を他所に 家のベルが鳴り響いた















2011/08/08 hriomi